日本企業の
アンケート結果
(2023年度)
熱帯林問題に対するアンケート結果
(2023年度実施)
2022年度の企業アンケートの集計結果についてはこちらからご覧いただけます。
このアンケートの目的は、日本の住宅産業のサプライチェーンに連なる企業の取り組みを見える化し、持続可能な木材原料の取り組みを後押しすることです。
今回のアンケートでは、木材使用企業74社にアンケートを送付しました。その内、25社から回答を得られました。
なお、日本製紙木材株式会社については、アンケートへの返事はあったものの、「社内の内情に関するアンケートにはお答えできません」という旨の連絡がありました。そのため、これを除く24社の回答内容をもとに分析・評価を行いました。
また、それ以外の約3分の2にあたる企業からはアンケートへの返事もなく無回答でした。
JATAN では、アンケートに回答した24社については、これらの企業がリーダーシップを示していると評価しています。
アンケートの質問項目と評価基準については、「調達方針の策定」(10 項目)と「調達方針の実施」(11 項目)としています。 ※各企業から寄せられた回答の信ぴょう性については、JATAN では責任を負わず、すべて真実だとみなしています。
質問項目
- 調達方針の有無
- 調達方針の公開-透明性
- 調達方針の達成に向けた期限付きの実施計画
- 方針ガイドラインの改善の有無
- 「合法性」の定義・根拠
- 転換材の合法性についての判断
- 森林減少の禁止
- 泥炭地開発の禁止
- 強制労働・児童労働の禁止
- 地域住民・先住民族の権利尊重
- サプライチェーン調査の実施
- サラワク由来の木材の取り扱い
- インドネシア由来の木材の取り扱い
- サラワク・インドネシア材製品を排除したか
- 排除していない理由
- 合法性の確認
- 認証材の調達
- 認証の優先順位
- 方針・ガイドラインの実行度を
デューデリジェンスによって検証 - 実証状況の検証のための
デューデリジェンスの実施 - 検証結果の公表
調達方針の策定 | |||
① 調達方針の有無 | 策定している | 策定を予定している | 策定していない |
➁ 調達方針の公開-透明性 | 公開している | 部分的に公開している | 公開していない |
➂ 調達方針の達成に向けた 期限付きの実施計画 | 期限付きの実施計画がある | 期限付きではないが、 実施計画はある | 実施計画はない |
➃ 調達方針の改善 | 改善を検討している | 改善を検討しない | |
➄ 「合法性」の定義・根拠 | 形式的な合法確認を超えてデューデリジェンスなどで持続可能性、人権等に配慮(広義の合法性) | 国や地域の法令・ガイドラインに適合/ 取引先の書類で確認(狭義の合法性) | |
⑥ 転換材の合法性についての判断 | 形式的な合法確認を超えてデューデリジェンスなどで持続可能性、人権等に配慮/ 不使用 | 検討中 | 国や地域の法令・ガイドラインに適合/ 取引先の書類で確認 |
⑦ 森林減少の禁止* | 方針に含まれている | 方針に含まれていない | |
⑧ 泥炭地開発の禁止* | 方針に含まれている | 方針に含まれていない | |
⑨ 強制労働・児童労働の禁止* | 方針に含まれている | 方針に含まれていない | |
⑩ 地域住民・先住民の権利尊重* | 方針に含まれている | 方針に含まれていない | |
* NDPE 方針(森林減少の禁止・泥炭地開発の禁止・強制労働・児童労働の禁止・地域住民・先住民の権利尊重)の採用 | |||
調達方針の実施 | |||
⑪ サプライチェーン調査の実施 | 調査を実施している | 調査を予定している | 調査を実施していない |
⑫ サラワク由来の木材の取り扱い | 取り扱っていない | 取り扱っている | |
⑬ インドネシア由来の木材の取り扱い | 取り扱っていない | 取り扱っている | |
⑭ サラワク/ インドネシア材製品を排除したか | いずれも排除した | いずれかを排除した | 排除していない |
⑮ 排除していない理由 | 【排除】順次排除/全面排除の予定ふくむ | 調達方針に適合/ デューデリジェンス調査などで持続可能性を確認 | 書面上合法性を確認 |
⑯ 合法性の確認 | 合法の根拠を要求している | 合法性の根拠を 要求していない | |
⑰ 認証材の調達 | 信頼性の高い認証を優先し、調達でも優先 | 認証材を優先するが、認証どうしの区別はない | 認証は要件ではない |
⑱ 認証の優先順位 | FSC | 状況に合わせ総合的に判断 | 区別していない |
⑲ 方針・ガイドラインの実行 度をデューデリジェンスに よって検証 | 検証している | 検証していない | |
⑳ サプライヤーに対しての デューデリジェンスの実施 | すべてのサプライヤーに 対して実施している | 一部のサプライヤーに 対して実施している | 検証していない |
⑮ 検証結果の公表 | 公表している | 公表を予定している | 検証、または公表していない |
アンケート調査結果概要
2023 年度版アンケート評価の追加項目(22 年度版との比較)
※追加した項目については下記、「分析・評価」を参照してください。
- 合法性の定義・根拠
- 転換材の合法性
- サラワク/ インドネシア材を排除したか
- 排除しない理由
- 森林認証の優先順位
- 調達方針・ガイドラインの実行度をデューデリジェンスによって検証しているか
アンケート対象企業の変更
今回、フローリング施工・販売の中小規模企業を除外する一方で、これまでの鹿島に加えゼネコン13社を加えるなどして、大規模なユーザー企業を多く含めた。
さらに、NGOによるレポートやJATANが入手したインドネシアの公式データなどからサラワク/インドネシア材を利用していることがあらたに判明した企業を追加した。
今年2月に計74社に対してアンケートを実施し、このうち25社から回答を得た。日本製紙木材からは、会社の内情に関するアンケートには方針により回答を控える旨の連絡があった。
したがってこれを除く24社の回答内容をもとに分析・評価を行った。
アンケートに回答した24社については、これらの企業がリーダーシップを示されていると評価している。
今回はじめて回答いただいた五洋建設、ユアサ木材はあらたに調達方針(ガイドライン)の策定に向けて意欲を示されている。歓迎したい。
調達方針を外部レビューのために開示することは、森林問題への取り組みに関して他の先進国に遅れをとっている日本において大きなステップであるが、責任ある倫理基準を達成し、消費者や金融機関の信頼を得るために透明性の確保は必要不可欠であると考える。
ミサワホームは2019年のアンケートでサラワク材を排除したと回答した。今回のアンケートでは、あらたに三菱地所がサラワク/インドネシア材を排除したことが分かった。
また、大和ハウスとフジタはいずれもサラワク材について、合法性・持続可能性の観点からリスク評価をおこない、サプライヤーに対して「順次排除するよう指導」をおこなっていく、さらにインドネシア材についても独自のリスク評価の上、「順次排除するよう指導」するとの回答だった。
積水化学はサラワク原産の木材について、原産地の「森林持続性」に問題が認められるケースに対して排除を計画しているとし、2024年度以降に「全量排除」を達成する予定であると回答した。
こうしたリスク評価の上での排除が、木材を扱う業界の大きな潮流になっていくことが期待される一方で、「排除していない」理由として、自社の調達方針に照らして容認できる限り調達を続けるとする企業も多い。
JATANでは「合法性」が単に産出国と受入国の法令の遵守を意味しているもの(狭義の合法性)とは認識していない。
国際法の視点に立って企業に人権を尊重する責任を課す「ビジネスと人権に関する指導原則」では、ビジネス活動において人権への負の影響を防止または軽減すること、負の影響があった場合の対処を求めている(原則19)。
2023年7月から8月にかけて国連ビジネスと人権の作業部会は訪日調査をおこなった。そのミッション終了ステートメントでは、ビジネスと人権の政策に関するギャップ分析を取り入れ、優先課題を洗い出し、関係者の責任を明確におこなう必要のあることが強調されている。
さらに、「人権を尊重する企業の責任」の項目では「バリューチェーンの上流と下流で人権リスクを監視、削減する能力を含め、さまざまな問題で大きなギャップが残っていること」を作業部会が確認したとある。
こうした指摘の前提にあるのは、企業がすべてのステークホルダーにたいして与える負の影響を精査・分析して問題を特定するという課題の存在である。
企業は、そのビジネス活動において人権侵害事例を洗い出し、被害者にたいして「国連ビジネスと人権指導原則(UNGPs)」を確実に実行することが急務であると考える。
じっさいアンケートの回答でも、三井不動産など国際行動規範(国際的に通用している規範)まで視野に入れている(広義の合法性)ところや「特にマレーシア等の高リスク地域においては、同国の法律に適合していたとしても、実際には違法行為や森林持続性に問題がある場合が存在するものと認識」(積水化学)している企業がある。この一方で、「インドネシア政府・サラワク州政府発行の書類のみで合法性」と述べている企業も存在する(ノダ、ウッドワン)。
「転換材の取扱いを把握していない」と答えている企業が複数ある。ただ、サプライヤーに問い合わせるだけでは転換材かどうか分からないのではないだろうか。
インドネシアのカリマンタンでは森林の農業用転換が急速に進んでいる(おもにアブラヤシ農園)。しかも伐採されたまま植栽されていないケースもあとを絶たない。
インドネシアの国内法では土地の地位の変更について慣習的な利用者と協議する義務はないという。木材採取から利益を得ることが目的とされるからである。確実な把握をしようと思えば、現場レベルでの検証が必要なのではないか。
ウェブサイトに掲げられている調達方針やガイドラインが本当に実効性を担保できるものであるか否か見極めるには、スコープを調達の最上流まで含めたデューデリジェンスによる検証が欠かせない。
JATANの認識ではサラワク/インドネシア材製品はその原木生産において、先住慣習地の収奪をはじめとするさまざまな問題が引き起こされている。
JATANではこれまでの「提言」で、各企業にデューデリジェンスの意味のある実行とその検証結果の公表をお願いしてきた。
サラワク産の木材製品を購入されている企業においては、まず、原料の生産現場においてみずから人権デューデリジェンスを実施し、その結果をもとに第三者をふくむ評価をおこなうようあらためて要望する。
森林認証プログラム(PEFC)の承認プログラムであるマレーシア木材認証制度(MTCS)によって認証された伐採事業には苦情処理システムをはじめ多くの問題があることが昨年に公表されたレポート「遺漏の認証制度(LOST IN CERTIFICATION)」で克明に描かれている。
FSCには、たとえば或るグループ企業が森林破壊など深刻な方針違反を犯した場合、認証企業の企業グループ全体の連帯責任を問える苦情処理がある。
この「組織とFSCとの関係に関する指針に対する苦情処理手順」に拠って、NGOがサラワクの伐採会社(サムリン社)やインドネシアのコングロマリット、アラスクスマに対してFSCに申し立てをおこない、受理されている。
なお、PEFCは「組織とFSCとの関係に関する指針に対する苦情処理手順」を持っていない。
今回の評価では、森林認証制度を方針・ガイドラインに触れているか否かの評価項目に加え、認証制度の質を問う優先度も評価対象に加えた。